「求人を出しても応募が来ない」「経験者を採用できない」「若手を採用しても、教える人がいない」
建設会社の経営者や現場責任者から、このような相談を受ける機会が増えています。
建設業の人材不足というと、職人や現場監督の人数不足に目が向きがちです。しかし、中小建設会社の現場を見ていると、本当の問題は単純な人数だけではありません。
仕事はある。しかし、見積を作れる人、内容をチェックできる人、現場を管理できる人、設計者や施主と調整できる人、そして若手を育てられる人が足りない。結果として、社長や一部のベテランに仕事と判断が集中しています。
私は鹿島建設で16年間、現場監督として施工管理に携わり、現在は中小建設会社の現場管理改善や若手育成を支援しています。この記事では、現場で起きている人材不足の正体と、採用活動の前に見直したい5つの対策を解説します。
建設業の人材不足は「採用人数」だけの問題ではない
国土交通省の「令和7年版 国土交通白書」によると、2024年の建設業就業者は55歳以上が36.7%を占める一方、29歳以下は11.7%です。高齢化と若手不足が同時に進み、技術や判断基準を次の世代へ引き継ぐことが大きな課題になっています。
ただし、中小建設会社が直面している不足は、現場で手を動かす人だけではありません。
- 見積を作成し、漏れや金額を確認できる人がいない
- 着工から竣工まで現場を管理できる人がいない
- 設計者や施主との調整・交渉まで担える人がいない
- 必要な資格者が足りず、受注機会を逃してしまう
- 若手を教育する担当者と時間が確保できない
つまり、「現場はある。しかし、管理できる人がいない」という状態です。
この状況で受注だけが増えると、売上は伸びても、見積漏れ、原価超過、追加変更工事の請求漏れ、品質低下、手戻りが増えます。さらに社長やベテランの長時間労働が常態化し、若手育成は後回しになります。
なぜ採用だけでは解決しないのか
人が足りなければ、採用を強化する。この判断自体は間違いではありません。しかし、受け入れる会社側に教育と業務の仕組みがなければ、新しい人を採用しても同じ問題が繰り返されます。
若手が「何をどこまで担当するのか」を分からない
経験の浅い若手に、着工準備から工程・品質・安全・原価管理、施主対応、竣工書類までを一気に任せてしまうケースがあります。本人は責任範囲や優先順位が分からないまま、多くの仕事とプレッシャーを抱えます。
失敗してから注意されても、本人は「何が分からなかったのか」さえ整理できません。これでは成長より先に、自信を失ってしまいます。
現場や上司によって教える内容が変わる
教育を各現場の所長任せにすると、教える順番、仕事のやり方、判断基準が人によって変わります。経験豊富な現場監督であっても、必ずしも指導が得意とは限りません。
教わった内容が社内の共通ルールにならず、次の現場では別の方法を求められる。若手は混乱し、会社も同じ教育を何度も繰り返すことになります。
社長とベテランに判断が集中する
見積チェック、現場のトラブル対応、若手教育、採用、経営判断を、社長や限られたベテランがすべて抱えている会社も少なくありません。
「任せたいが、任せる基準がない」「確認しないと不安なので、結局自分でやる」という状態です。これは個人の能力不足ではなく、業務の流れと判断基準が共有されていないことが原因です。
建設業の人材不足を解く5つの対策
1.不足しているのは「人数」か「機能」かを整理する
最初に行うべきことは、求人票を出すことではなく、社内で止まっている仕事を明らかにすることです。
- 誰が見積を作り、誰がチェックしているか
- 着工前に誰が図面・工程・発注条件を確認しているか
- 追加変更工事を誰が記録し、承認を取り、請求しているか
- 若手が困ったときに誰へ相談するか
- 社長にしか判断できない業務は何か
この棚卸しをすると、「現場監督がもう1人必要」ではなく、「見積チェックを分担したい」「着工前確認を標準化したい」「若手の一次相談役が必要」といった、具体的な課題が見えてきます。
2.業務フローと判断基準を標準化する
ベテランの頭の中にある確認事項を、チェックリストや業務フローとして見える形にします。
たとえば、着工前検討、見積確認、追加変更管理、竣工前検査など、失敗したときの損失が大きい業務から着手します。すべてを細かいマニュアルにする必要はありません。
- いつ確認するのか
- 何を確認するのか
- 誰が判断するのか
- どの記録を残すのか
この4点をそろえるだけでも、確認漏れと属人化を減らせます。
3.若手へ任せる仕事を段階化する
若手育成では、最初から「現場を一式任せる」のではなく、一つの仕事を確実に任せられる状態をつくることが重要です。
配属前または配属直後に、図面の読み方、工事写真、数量拾い、施工計画書や安全書類など、現場で使う基礎を教えます。そのうえで、担当できる業務を段階的に増やします。
たとえば、最初は写真管理、次に一つの工種の工程・品質管理、その後に協力会社との調整というように、責任範囲を明確にします。「何ができれば次へ進めるか」を可視化すれば、本人も上司も成長を判断しやすくなります。
はじめての現場を、ぶっつけ本番にしない。これが若手の定着と戦力化の土台です。
4.OJT担当者と相談のルールを決める
「分からなければ誰かに聞いて」だけでは、若手は質問できません。忙しそうな上司を前にすると、質問を後回しにし、問題が大きくなってから報告することがあります。
直属のOJT担当者を決め、毎日または週ごとに短時間の確認機会を設けます。質問内容をチャットや共有シートへ残し、同じ質問を社内の教育資料に変えていくことも有効です。
重要なのは、質問したことを責めないことです。早く相談した方が評価される環境をつくれば、手戻りや不具合を未然に防ぎやすくなります。
5.IT・AIは「任せきる」のではなく、確認を支える道具にする
ITやAIは、人材不足を補う有効な手段です。ただし、導入するだけで業務が改善するわけではありません。
実際に私が相談を受けたケースでは、AIで作成した見積を社内で十分に確認しないまま提出し、必要な項目の漏れが見つかりました。問題はAIを使ったことではなく、誰が何を確認するか決まっていなかったことです。
写真と音声から記録を残す、過去の見積を検索する、チェック項目の抜けを知らせるなど、IT・AIは「見落としを防ぐもう一人の目」として使うべきです。最終判断と承認は人が行い、ツールを既存の業務フローへ組み込みます。
人材不足対策は「採る」前に「育てられる会社」をつくる
経験者採用だけで、建設業の人材不足を解決することは難しくなっています。採用活動は必要ですが、その前に今いる人材が動きやすく、若手が成長できる環境を整える必要があります。
まず見直したい優先順位は、次の3つです。
- 社内の教育体制
- 現場管理の業務フロー
- 直属のOJT担当者
仕組みを整えることは、ベテランの価値を薄めることではありません。ベテランが培ってきた判断やノウハウを会社の資産に変え、次の世代へ引き継ぐための取り組みです。
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採用を増やすべきか、業務を標準化すべきか、若手教育を整えるべきかは、会社によって異なります。まずは無料相談で現状を伺い、必要に応じて現場管理改善の伴走支援や若手施工管理者育成をご提案します。