若手の現場監督が、毎日忙しそうにしている。
職人さんからの電話に追われ、起きた問題への対応で一日が終わる。それでも本人は一生懸命で、なかなか成長が見えない。
このような場合、本人のやる気だけを問題にするべきではありません。
図面の見方、工程の作り方、職人さんへの指示の出し方を順序立てて教えないまま、「現場の中で覚えてほしい」と任せていることがあります。
私自身、鹿島建設で16年間施工管理に携わり、新人の頃には「何をどこまでできれば担当者として合格なのか」が分からず苦労しました。
現在、中小建設会社の若手育成を支援する中でも、同じようなつまずきを見かけます。
この記事では、若手現場監督が後手に回る理由と、最初の90日で身につけたい基礎を整理します。
90日で一人前にするという話ではありません。上司の確認を受けながら、担当業務を前に進められる土台をつくるための考え方です。
若手現場監督が後手に回る負のループ
若手が最初につまずきやすいのは、個々の作業よりも、仕事のつながりが見えていないことです。
図面を十分に読めなければ、これから行う工事の内容を具体的にイメージできません。
工事内容が分からなければ、工程を組むことも難しくなります。工程がなければ、次に何が起きるのか、いつまでに何を決め、誰へ手配すべきかが見えません。
その結果、段取りや手配が後手に回ります。
毎日起きるトラブルや職人さんからの問い合わせに対応しているうちに一日が終わり、翌日の準備がおろそかになります。
翌日も準備不足のまま始まるため、さらに問題が増えていきます。
この負のループは、次の順番で起きます。
- 図面を十分に読めない
- 工事内容と作業の順序が分からない
- 工程を書けない
- 必要な確認、手配、指示が遅れる
- 当日の問い合わせとトラブル対応に追われる
- 次の日の準備ができない
忙しさだけを見て「もっと先を読め」と言っても、何を手掛かりに先を読めばよいのかを教えなければ改善しません。
若手育成がOJT任せになる3つの原因
1.育成の到達点が決まっていない
「現場で覚えてもらう」という方針だけでは、教える側と教わる側で合格基準が変わります。
上司は「そのくらいは自分で考えてほしい」と感じ、若手は「どこまで自分で判断してよいのか分からない」と感じます。
質問が遅れたり、反対に何でも上司へ確認したりするのは、能力だけでなく、担当範囲が曖昧なことも原因です。
最初に、90日後にできてほしいことと、必ず上司の確認を受ける仕事を分けておく必要があります。
2.仕事を支える基礎を教える前に、作業だけを任せている
写真を撮る、日報を書く、職人さんへ連絡する。
こうした仕事を一つずつ教えることは必要です。
ただし、図面と工程の関係が分からないまま作業だけを任せても、若手は指示されたことをこなす状態から抜けにくくなります。
最初に身につけたいのは、次の3点です。
- どの図面を見れば必要な情報にたどり着けるか
- 工事がどの順番で進み、前後の作業がどう関係するか
- 誰に、何を、いつまでに伝え、確認するか
この土台ができると、若手は「次に起きること」を少しずつ予測できるようになります。
3.忙しい上司の頭の中に、判断基準が残っている
経験のある現場監督は、図面を見ながら無意識にリスクを探し、工程の前後関係や職人さんへの伝え方を判断しています。
しかし、その判断過程が言葉になっていなければ、若手は結果だけを真似することになります。
「なぜ今確認するのか」「確認しないと何が起きるのか」まで伝えることが必要です。
長い講義にする必要はありません。日々の打ち合わせで、上司が判断の根拠を短く言葉にするだけでも、若手の学び方は変わります。
国土交通省の検討資料でも、建設会社の人材育成余力が低下する中で、若手技術者が現場で技術を習得しにくくなっていることが課題として示されています。
現場任せにするだけでは、以前と同じ育て方が成立しにくくなっています。
最初の90日で教えること
1~30日:図面の見方と安全管理の基礎
最初の30日は、速さよりも「確認する場所」と「質問の仕方」を身につける期間です。
建築図、構造図、設備図、詳細図などの役割を理解し、必要な情報がどの図面にあるのかを探せる状態を目指します。
すべてを一人で判断できる必要はありません。
分からないときに「分かりません」で終わらせず、次のように伝えられることが大切です。
- どの図面を確認したか
- どこまでは理解できたか
- 何が一致していない、または判断できないのか
- いつまでに回答が必要か
同時に、安全管理の基本を教えます。
若手に仕事を任せる場合も、安全を独学にしないことが前提です。
作業内容、危険箇所、立入禁止範囲、保護具、緊急時の連絡方法など、現場で守るべき基本を具体的に伝える必要があります。
31~60日:簡単な工程を書き、翌日の準備をする
次の30日は、担当する小さな範囲について、自分で簡単な工程を書きます。
立派な全体工程表を作ることが目的ではありません。
作業の順番と、作業前に必要な確認や手配を見えるようにすることが目的です。
例えば、翌日の作業について次の項目を確認します。
- 作業場所と作業内容
- 必要な図面と最新の変更内容
- 入場する職種と人数
- 材料、重機、仮設、搬入経路
- 前工程が終わっているか
- 他業者との干渉がないか
- 安全上の注意点
- 誰へ何を伝えるか
上司は完成した工程だけを見るのではなく、若手がどのような順序で考えたかを確認します。
毎日10分でも、翌日の準備を一緒に確認する時間を決めると、質問の先送りを減らせます。
61~90日:限定した範囲を、上司の確認付きで管理する
最後の30日は、担当範囲を限定したうえで、準備、指示、確認、報告までを一通り経験します。
職人さんへの指示では、作業名だけでなく、場所、範囲、期限、仕上がり、注意点を具体的に伝えます。
指示した後に、相手の理解が合っているかを確認するところまでが仕事です。
この時期の合格基準は、問題を一人で解決できることではありません。
- 図面を確認してから行動できる
- 簡単な工程を作り、次の準備ができる
- 分からない内容を整理して相談できる
- 決められたタイミングで上司へ報告できる
- 安全上の異常を見逃さず、作業を止めて相談できる
ここまでできれば、上司の確認を受けながら担当業務を進める土台ができたと考えられます。
若手だけに任せてはいけない仕事
若手へ経験を積ませることと、責任を丸投げすることは違います。
特に次の仕事は、上司が確認に入るべきです。
隠ぺい部の検査
施工後に見えなくなる部分は、やり直しの影響が大きくなります。
若手に確認を担当させる場合も、確認項目と記録方法を決め、上司が最終確認を行います。
工程上、特に重要な節目
後工程へ大きく影響する作業、品質を左右する作業、多くの関係者が動く日は、担当者任せにしません。
事前の打ち合わせと当日の確認に上司が関わります。
施主や近隣への説明
工程、費用、騒音、トラブルなどの説明は、会社としての責任を伴います。
若手を同席させて学ばせることは必要ですが、最終的な説明と判断を若手だけに背負わせるべきではありません。
問題が発生した際に、上司が「担当者が判断したこと」として部下へ責任を移すことも避けなければなりません。
任せる範囲を決め、確認する立場にいた上司が最終責任を持つことで、若手は必要な報告をしやすくなります。
育成は、教える内容と確認方法をそろえるところから始める
現在支援している建設会社でも、会社名を伏せた形で若手育成の仕組みづくりに取り組んでいます。
最初から大がかりな研修制度をつくるのではなく、日々の仕事を整理し、「いつまでに何ができればよいか」「どの仕事は上司が確認するか」を決めるところから始めます。
育成表を作るだけでは定着しません。
現場で使い、上司と若手の双方から意見を聞き、実際の仕事に合わない部分を直していくことが必要です。
まとめ:90日で目指すのは、一人前ではなく先手で動くための土台
若手が後手に回るのは、本人の意識が低いからとは限りません。
図面、工程、指示のつながりを教えず、現場の中で覚えるよう任せていることが原因の場合があります。
最初の90日では、次の状態を目指します。
- 必要な図面を探し、分からない点を整理して相談できる
- 簡単な工程を書き、翌日の準備ができる
- 安全管理の基礎を理解する
- 職人さんへ具体的に指示し、確認できる
- 自分の判断範囲と、上司へ相談する範囲が分かる
若手を早く一人で動かすことより、確認を受けながら正しい順序で仕事を進める習慣をつくることが先です。
それが、将来の手戻りや事故を減らし、会社として現場を任せられる人材を育てることにつながります。
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